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日々平穏

二次小説とか日記を気まぐれに書いてみるつもりです。

闇の旅路 07

 治療が完了したところでのアカツキからの呼び出しに、考えていた計画がついに実行できる段階になった。
 そう予想していたアキトは、会長室で話を聞いてみて頭を抱えたくなっていた。



 話の内容は予想とはまったく違ったもので、要約するとルリにいつ会いに行くのかというものだった。

 「で、テンカワ君、もう一度解りやすく聞くよ。ルリ君にいつ会いに行くんだい?」

 いささか解りやすくなりすぎている言葉で攻めるアキトの目の前の人物。
 さらには、答えるまで何度でも聞くよといった雰囲気もプラスして醸し出す目の前の人物ことアカツキ・ナガレにアキトはほとほと困り果てていた。

 「それを聞くが為にわざわざ月から俺を呼び出したのか?」

 アキトは、あきれて物も言えないという感じだった。

 「もちろん、そうだよ」

 自信たっぷりに答えるアカツキに、アキトは今日何度目になるか解らない溜め息をついた。
 アキト自身、ルリと会う事は一度了解したゆえ、それを反故にするつもりはない。
 会うと決めた時から、何を伝えるかも考えていた。
 だが、今日になって何故この様にしつこく聞いてくるのかが解らないでいた。
 かといって、このままでは解放されそうもないのでとりあえず答えることにした。

 「なら、ルリちゃんの次の休暇あたりにアポをネルガル関係の名で取って貰えるか?」

 これなら、すぐにどうこうなる事はないだろうとアキトは考えていた。
 だが、アカツキからはまたしても予想を覆す内容が返ってくる。

 「オーケー、オーケー。明日にでも無理やりルリ君には有給を取ってもらうよう手配するよ」
 「なっ!」

 この様なところで会長の特権を振りかざす行動を見せるアカツキにアキトは絶句といった表情を見せる。

 「すまないね。あの計画の準備がほぼ整いつつあるんだよ」

 一転して、真剣な表情になってアカツキは語り始めた。

 「それに、ちょっとクリムゾンの動きが怪しくなってきている。
  最近なんだけど、統合軍のコロニー爆破に関する事故調査委員会にクリムゾンが接触したという情報が入ったんだよ。最悪の展開を予想すると君に火の粉がおよぶ可能性がある」
 「予想していたことだ。想定よりも遅いくらいだったな」

 別段驚くことはなかった。
 コロニー爆破に関する一連の罪をアキトに被せ、自分達はそれを処理した功績で今までの穴埋めを行う。
 実際にコロニーを爆破したのは火星の後継者であったとしても、そのきっかけを作ったの自分だとアキトは思っている。
 研究所のみを狙っていたなどと言い訳をするつもりもなかった。
 来るべき時が来た、それだけの事だった。

 「なら理由がわかったところで、明日でいいね」
 「仕方ないな、よろしく頼む」
 「任せておきたまえ。君の方も計画に必要なものの準備を進めておいてくれるかな」
 「そうだな。俺は持っていく物などないが、ラピスには準備を急がせよう」

 そして、細部をさらに詰めると二人の会話は終了した。
 部屋を出て行くアキトを見送ると、アカツキは宇宙軍へと明日の計画に必要な手続きを済ませていった。
 


 翌日のルリとアキトが会う場所はユリカの入院する病院だった。
 それを知った時のアキトの第一声はおもしろいものだった。
 知り合い一同に見せたいくらいだったよ、とはアカツキの談。
 どうにかして変更させようとアカツキの元に押しかけたアキトだったが、口では敵わず泣く泣く帰る結果となっていた。
 ちなみに、ルリにアポを取ったのはイネスということになっており、ユリカの体に関して伝える事があるという内容にしていた。
 無理やり休みにしたのはアカツキの権力の賜物であったが……。
 約束の時間が刻一刻と近づいてくる。
 直接会ったのはレシピを手渡した時が最後で、火星ですれ違ってから後は逃げ続けた。
 今更だが、ルリが自分に会うことがどれほどの意味があるのかアキトは疑問に思っていた。
 そう考えつつも、その判断を下すのはルリ自身というアカツキの言葉を思い出し、アキトは迷いを断ち切る。
 思考が埋没しそうになったところで、約束の時刻が近いことを知らせるアラームが鳴り響く。
 時間に正確なルリの事だから、5分前という今の時刻だとすでに指定された待ち合わせの場所で待っている可能性が高かった。
 本来なら時間前に行って待っているべきなんだろうが立場上それをするわけにはいかない。
 そんな事を考える自分に少々驚きながらも、アキトはルリの待つ場所へとジャンプした。
 


 待ち合わせに指定された病院内の個室でルリは今日呼び出された理由を考えていた。
 ユリカの容態は安定していて、退院も間近であった。
 なのに今日呼び出された理由はユリカの容態について。
 これはルリにとってあまりにも不自然な内容だった。
 アカツキからの圧力がかかっての今日の休暇に、何か絶対に裏があるとルリは考えていた。
 まずは何から問い詰めるべきか、そんな事をルリが考えていると目の前にボソンの煌きが出現する。
 単独ジャンプでの登場を可能とするのは世界で三人だけ。
 今回のアポを取った人物がやって来た事を知らせるものであった。
 ずいぶん派手な登場をするのですね、とあきれた表情をみせつつジャンプアウトしてきた人物を確認する。
 そして、誰がこの場に来訪したのか気が付いたと同時にはルリの目からはらはらと涙が零れていった。
 黒一色の服装に、顔の半分程を覆い隠すバイザーを着用している。
 ルリにレシピを渡した時と同じ格好のアキトがルリの眼前に立っていた。

 「……アキトさん」

 ルリはこの言葉以外を口にする事が出来なかった。
 アキトの方も涙の止まらないルリを見て、どうすればいいのか戸惑っていた。
 どれくらいの間お互い向かい合ったまま立ちすくしていたのか、言葉はなくその場所に響くのはルリの泣き声だけだった。
 その状況に耐えかねたのか、先に動いたのはアキトだった。

 「大丈夫かい? ルリちゃん」

 そう言いながらゆっくり近づくと、アキトはルリの頭を軽くなでる。
 纏う雰囲気こそ過去とは正反対のものになってしまっていたが、ルリは感じていた。
 その心の根底にあるやさしさは以前と変わっていないと。
 それを証明するかのように自分に対して触れるアキトの手と掛けられる言葉。
 自分の考えが正しかった事の確信を得ると、ルリはアキトに抱きつきさらに声をあげて泣き続けた。
 ルリらしからぬ行動に始めこそ驚いたアキトだったが、落ち着きを取り戻すと泣き止むまでルリの頭をなで続けた。
 ナデシコの仲間や、新たに出会った人々に囲まれたルリは自分などいなくても問題ないと思っていたアキトは、
 ルリの心の中で自分の占める割合がこれほど大きいとは思ってもみないことだった。
 それに気がつかずに避け続けた結果が今自分の腕の中で泣きつづけるルリ。
 アキトが自分の愚かさをこれほど憎く感じたのはラピスとのリンクの件以来、今まで生きてきた人生の中で2度目だった。
 ルリが泣き止んだのは、それから10分程してからだった。
 気の済むまで泣いて、幾分落ち着いたのか先程までの一連の行動を思い出したのかルリの顔は真っ赤に染まっていた。
 だんだんと思考回路の方も回復してきたのか、アキトが来た理由をルリは聞き始めた。
 アキトの温もりを手放したくないが為、抱きついたままの格好だったが。

 「アキトさん、戻ってきてくれたんですか?」

 その問いに対して、会ってすぐに別れの話などするべきではないと思い、少しぼかした返答をアキトは選んだ。

 「いや、今日は伝える事があって会いに来た」
 「戻って来てはくれないのですか」
 「まだやり残した事がある」
 「だったら、それが終わったら」

 最後まで言葉を紡がせることなくアキトは首を左右に振ることで、これ以上何を言ってきても無駄だと示す。
 けれど、目の前にアキトがいるのに諦める事が出来ないルリはまだ食い下がる。

 「では、ユリカさんはどうするんですか?」

 この言葉を持ってすればきっとアキトを説得できる。
 そんな思いを込めてルリはこの問いをアキトにぶつける。
 それに対して、その内容が問われるのは当然と覚悟していたアキトは準備していた返事を返すだけだった。

 「ユリカとは今後一切会うつもりはない」

 その言葉はルリにとって衝撃的なものだった。
 嘘だと思いたかった。
 けれどアキトの表情はそうは語っていなかった。
 過去、ルリにとって一番の幸せの象徴。
 それが崩れていく。
 生きていると解った時から、必死になって取り戻そうとしたものが崩れ去っていく。

 「……そんな」

 続く言葉はなかった。
 ルリは、ユリカを助け出すが為にコロニーを墜すほどの復讐をアキトが敢行したと思っていた。
 しかし先程のアキトの答えはルリのこの考えを否定するもの。
 ならば何故アキトは一連の行動を遂行したのかルリには解らなかった。

 「冗談ですよね。そうです、ユリカさんに会いに行きましょう? そうすればきっと」

 きっと何なのだろう。
 続くべき言葉はルリ自身にも解らなかった。
 ただ、何とかしてアキトを引き止めたいという気持ちだけが胸の内に燻っていた。
 そんなルリの再び泣き出しそうな表情に折れたのか、

 「わかった。それでルリちゃんが納得出来るなら最後に一度だけ会おう」

 と、悲痛な面持ちで答える。
 ユリカ本人に会えばもしかすると。
 その考えにルリは一縷の望みを込める様にアキトを連れユリカの病室を目指す。
 しかし、この行動をルリはすぐに後悔する事になる。
 ユリカの病室に入ってルリと話し始めた時は確かによく知るユリカの反応だった。
 いつも通りのユリカは、きっとアキトを説得してくれるだろうとルリは思っていたのだろうが、横にいるアキトに対するユリカの反応はルリにとって考えられないものだった。

 「はじめまして、ルリちゃんのお知り合いですか?」

 始めは、アキトの格好やバイザーのせいと思ったのか、アキトにバイザーを外して貰えませんかと頼んだ。
 アキトはルリの気の済むようにさせた。
 しかし、ルリの期待は見事に裏切られた。
 何をしても、どう説明してもユリカは目の前にいるアキトを認識できなかった。

 「何故なんですか」

 困惑、悲しみ。
 そんな感情がごちゃ混ぜになった表情をルリはしていた。
 暴発しそうになるルリの肩にそっとアキトは手を添える。

 「いいんだよ、ルリちゃん」

 これは、解っていた結末なのだと言わんばかりの表情でアキトはルリを押し留める。 

 「ユリカさん、騒がせてすまなかった。今日のところはこれでお暇させて貰うよ」

 そう言った後、誰も聞き取れない程小さな声でさよならとアキトは呟く。
 そしてルリの背を押して病室から出て、手配されていた部屋に戻った。
 静まり返る部屋の中、先に口を開いたルリはこの事態がどういう事なのか理解できなかった。

 「何故? どうしてユリカさんは……目の前にアキトさんがいたのに」

 途中で言葉を切ったが、続く言葉をアキトは予想できていた。

 「俺が解らなかったのか?」

 簡単な事だとアキトは言うが、ルリには全く解らなかった。

 「それはね、俺がユリカの理想の王子様からかけ離れた存在になってしまったからだよ」

 ルリはそのような理由信じられないと反論しようとするが、現実に目の前で起こった現象を否定する事はできなかった。

 「いいんだよ、ルリちゃん。きっとこれは自分の意志で決めないで、流されて生きてきた俺に対する罰なんだから」

 誰のせいでもないんだよ、と自重気味に笑いながらアキトは話を続ける。

 「ナデシコにいた頃から少し考えれば解る事だった。ユリカが俺じゃなくて、俺を通して理想の王子様を見ていることなんて。
  それを考えようとしないで流された結果がいまの状態なんだよ。火星の後継者から助け出されて、復讐を自分の意志で決めていろいろと考えた。
  その時にこの事に気がついて、必死に否定したよ。けど考えれば考えるほど、この考えが正しいと解ってしまった。
  それからだんだんとユリカに対する気持ちも消えていった。ユリカを嫌いになった訳じゃないけど、もう幼馴染程度にしか思えない」

 それは、この結末の原因となる一つの真実。
 そして、偽らざるアキトの本音であった。
 実際には、こうなったもう一つの要因があったが、それをアキトは語る事が出来なかった。

 「そう、ですか」

 アキトの思いを聞いたルリは悲しかったが、その思いはなんとか押し留める。
 今日会いに来たのは伝える事があるからだとアキトは始めに言った。
 ならば、まだ聞かなければならない事があるはず。
 それこそが、今日アキトがルリに会いに来た本当の目的のはずだからだ。

 「では、今日私に伝えたかった事とは何だったんですか?」

 ここまでの流れから、ユリカの事ではないのは明白だった。
 いったい何を伝えに来たのか、ルリには思い当たる事がなかった。

 「今日は、ルリちゃんにお別れを伝えに来た」

 一瞬、ルリはアキトの言った言葉が理解出来なかった。
 やっと会えたところだというのに、伝えたいことは山ほどあった。
 そんなルリにアキトは別れを伝えに来たと言う。

 「どういう事です? やっと会えたのに」

 今日話した中で、一番大きな声をルリは部屋中に響き渡らせた。
 慌てるルリにこれから実行しようとしている計画をアキトは伝える。
 その内容は、以前アカツキと話して決めた遺跡を破壊するための計画だった。
 破壊するだけならよかったのだが、問題なのはその方法だった。
 ランダムジャンプを行う。
 それは、永遠の別れを意味していた。

 「何故、どうしてアキトさんがそんな事をするのですか?」

 今にも泣きそうな顔で、出てきた言葉はこれだけだった。

 「贖罪だと俺は思っている」
 「どういうことですか?」
 「俺は大量虐殺を行った人間だ」

 この言葉に反論を挟もうとするルリを遮ってアキトは話を続ける。

 「本来なら捕まるべきなんだろうが、今捕らえられても統合軍の責任逃れの材料にされるだけだ。
  そんな事に利用されるつもりはない。だが、罪は償わなければならない。だから、俺は悲劇の元凶をこの世界から消す役目を担う」

 自分なりに考えた結果だとアキトは言う。
 この世界にあの遺跡があるからこそ悲劇は繰り返すのだと。
 だから、これまでの贖罪に自分の全てを持ってして遺跡を消してみせると。
 けどそれはアキト一人の考えであり、ルリは納得できなかった。

 「また、私を残して行くのですか?」

 心が張り裂けそうになりながらルリは尋ねる。
 過去、一人取り残されたときの事を思い出したのかその体は小刻みに震えていた。

 「ルリちゃんには、遺跡の消えた後のこの世界でユリカの事を頼みたい。
  そして、平和になった世界で幸せを掴んで欲しい」

 それは、アキトとからルリへの切実な願い。
 アキトと共に居たい気持ちとアキトの願いを聞いてあげたい気持ちの両方がルリの中にあった。

 「アキトさんは私の事をどう思っていますか?」

 それは突然の質問だった。
 今まで話していた内容とは全く関係ないものだった、アキトにとっては。
 しかし、ルリにとってはこれからアキトに対してどう行動するかを決める重要なファクターとなる問い。

 「ルリちゃんは俺にとって、世界で一番大切な家族で大好きな妹だよ」

 アキトの答えはルリにとって嬉しくもあり、悲しくもあるものだった。
 けれど、この答えによってルリの取る行動は決定された。
 決めたからには悲しい気持ちなど微塵も感じさせないよう意識して淀みなく言葉を紡ぐ。
 実際に出来ていたかはルリ自身微妙だとは思いつつも、そして本心では真逆の事を思いながらも。

 「アキトさんの側に居れないのは悲しいですけど、ユリカさんの事は任せてください。
  けど、私を置いていく代わりに今日一日はずっと一緒にいてくれませんか? 最後の思い出に」

 ルリが自分と一緒にいたいと思っている事は再開の時の反応で十分理解していた。
 けど、それでもルリを死出の旅になど連れて行きたくなかった。
 これは自身の我が儘だとアキトは理解している。
 だから、自分の願いを受け入れてくれた時のルリの悲しそうに笑う表情を胸に焼き付ける。
 ルリからのお願いを聞き届けることに了解の意を告げながら。



 それからは、アキトの替えの服を調達した後、場所を変えて離れていた間のことを話し続けた。
 楽しかった事、悲しかった事さまざまな事を話した。
 夢中になって話していた為か、アキトの感覚が戻っていることにルリは気が付いていなかった。
 治療の事に話が及んで、なおかつ副作用で瞳が金色になっているのを聞くと天地が逆転するのではというほどの驚きを見せた。
 そして、バイザーをする必要がない事が解ると、外すのを嫌がるアキトを黙らせてバイザーを奪い取った。
 その後の反応は、おそろいですねとラピスと同じような感じで終始上機嫌だった。
 どれくらい、話ていたのだろうか。
 日はすでに傾き始めていた。
 ルリが最後に行きたいと言った場所は3人で暮らした思い出の長屋だった。
 道すがら、手をつないで歩いていると幸せな記憶がいくつも思い出されたようで、2人は視線が合う度に嬉しそうに微笑み合っていた。
 一緒に屋台を開いた公園。
 買出しに来た商店街。
 そして、思い出深い長屋に到着する。
 過去に見た時とまったく変わっていなかった。
 ルリが先に甲高い音を響かせながら階段を上って行く。
 階段を登り切ると、下にいるアキトの方に向き直って万感の思いを込めて一言。

 「おかえりなさい、アキトさん」

 満面の笑顔で、ずっとここでアキトさんに言いたかったんですと言うルリの顔が、アキトには滲んで見えた。

 「ただいま、ルリちゃん」

 ぼろぼろに泣きながらも、過去のアキトを思い出させるようなやさしい声色で答える。
 そして、ゆっくりと懐かしい階段を上って行く。
 安っぽい金属音の響く階段を一段上るたびに長屋で過ごした幸せな日々が鮮明にアキトの脳裏に蘇る。
 ただ夢に向かって突き進んでいた日々は今のアキトから見ると輝かしいものだった。
 その輝かしい日々の象徴ともいえるルリがかつて暮らした部屋の前でアキトが来るのを待っていた。

 「入りましょう、アキトさん」

 扉をくぐり、靴を脱ぐと再びアキトの方を向いておかえりなさいと言った。
 それにただいまと言って続いて部屋に入る。
 約4年ぶりの部屋の主の帰還だった。
 部屋に入って、広がるのは昔と全く変わらない光景。
 そこからも、ルリのお願いの連続だった。
 最初のお願いは、おいしく出来なくても構わないからアキトさんの作った料理が食べたいというものだった。
 さすがにそれは、と断ろうとするアキトに対して目の端に涙を溜めながらルリは懇願した。
 ルリの涙には抗えず、渋々台所に向かう。
 台所に向かうアキトの背中に、リクエストはチキンライスですよとルリから伝えられる。  
 一番思い出深いメニューを作るために覚悟を決めて台所にたったが、包丁を持つ手は震え、料理を作っている最中も涙が止まらなかった。
 再び料理が出来る喜びと過去の自分とあまりにも変わってしまった今の自分を如実に感じていた。
 出来上がったチキンライスは昔とは比べるめでもなく酷い出来だったが、食べている最中は2人そろって泣きながらの食事だった。
 その時、泣きながらもおいしいですと言ったルリの顔をアキトは一生忘れまいと心に誓う。
 食事が終わった後も、二人して昔に戻ったかのような時間を過ごす。
 今だけの幻と理解しつつも、その時間は二人にとって楽しかった日々の再来だった。
 気が付くと、時刻はすでに深夜といっていい時間になっていた。
 楽しい幻ももうすぐ終わる、アキトがそう考えた時だった。

 「アキトさん、今日は昔みたいにここで寝ませんか?」

 アキトの服の裾を掴みながら話すルリの顔は朱に染まっていた。

 「最後の思い出に、と言ったはずですよ」

 断りきれず困惑するアキトに、さらにお願いですと懇願するルリ。
 それにあきらめた表情をしながらコミュニケでメールを送ると、わかったよとアキトは答えた。
 そして、二人は残り少ない幻の様なひと時を別れのその瞬間まで夢見心地で過ごした。
 


 楽しい夢のひと時は終わりを告げた。
 ルリは未だ夢の中。
 そのあどけない寝顔を見つめながらアキトは部屋を去る準備をしていた。
 直接別れを伝えるのはアキト自身辛かったので、置手紙を残す事にした。
 CCを一つ取り出して、ジャンプのイメージを固める。

 「さよなら、ルリちゃん」

 最後に、もう一度だけルリの顔を目に焼き付けるとアキトは月へ帰還した。
 この時、アキトは気が付かなかったがルリの目尻からは一筋の涙がこぼれ落ちていた。

テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2007/02/16(金) 01:16:37|
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