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日々平穏

二次小説とか日記を気まぐれに書いてみるつもりです。

闇の旅路 08

 「お集まりの皆様方、まずは此方の映像を御覧下さい」
 
 そんな一言から、この会見は始められた。




 ウィンドウに映し出された映像は遺跡が保管されていた場所の監視カメラのものだった。
 30秒程何も起こることなく時が過ぎるが、突如変化は訪れた。
 倉庫中央付近にボソンの煌きが表れ、徐々に人のカタチを取り始める。
 ボソンの煌きが収まると、そこには黒ずくめの男が一人立っていた。
 パッと見た感じだとその顔はおよそ犯罪など似合いそうも無い青年だった。
 現れた男はじっと遺跡を見つめると、おもむろに右手で遺跡に触れて再びボソンの煌きを纏って消えていった。
 男が消えた後には、遺跡も同じようにその姿を消していた。
 遺跡強奪の一部始終を記録した映像はここで終わった。
 
 「御覧頂いた映像は、先日の基地襲撃時に犯人グループの別働隊と思われる人物の行動の一部始終です」

 静まり返った会場を満足そうに眺めながら統合軍将校は説明を続ける。
 
 「同時に行われた2つの事件から、軍施設の襲撃はあくまで陽動で犯人グループの本来の目的はこの強奪にあったと我々は考えています。
  A級ジャンパーの能力を駆使した計画的犯行。これは許されざる犯行です。そして何よりもこの度強奪された物体が問題です」
 
 声を荒げ、目の前の机に両の手を叩きつけ、怒りを顕わにしながら立ち上がる。
 どこかの政治家が街頭演説を行うかのごとく身振り手振りを交えながら統合軍将校は熱弁をふるう。
 
 「強奪されたのは、つい先日テロリストによって壊滅的打撃を受けたヒサゴプランで重要な役割を担っていた装置です。
  今後、人類の発展の為に重要な役割を持つであろうこの装置を犯人が強奪した動機は未だ不明です。
  ただ、犯人についてはA級ジャンパーという事と映像に写された姿、この2つの情報から特定が出来ています」

 統合軍将校の醸し出す緊迫した雰囲気に呑まれたのか、この場に集められた記者たちの視線は前方に釘付けだった。
 皆が固唾を飲んで続く言葉を待つ中、一人の記者がそれは一体と相槌を打つ。
 この言葉を待っていたかの如く統合軍将校は饒舌に続きを語りだす。
 
 「犯人の名前はテンカワ・アキト。今は無き火星ユートピアコロニー出身の男です。
  A級ジャンパーということで軍のデータベースに登録されていた人物を照合していった結果、顔の骨格が約99%一致しました。
  この男が犯人とみて間違いないと我々は判断しています。そしてこの男に関してもう一つ面白い事実が判明しています」

 そう言って統合軍将校は、部下に合図を送ると会場に再びウィンドウが現れ、先ほどとは違う映像が映し出された。
 それは、何の変哲もない尋問風景を映したものだった。
 特筆するところを挙げるとすれば、尋問されているのが火星の後継者の一人というところくらいであった。
 尋問風景もごくあたりまえのもので、尋問官の質問に対してその男は知らぬ存ぜぬを貫き尋問官がほとほと困り果てているという感じだった。
 が、それも画面が激しく揺れ動いたあたりから徐々に変化しだした。
 何者かが施設に襲撃を仕掛けたらしく、軍関係者たちが慌ただしく対応しだす風景が映し出されるとその変化が如実に現れだした。
 尋問されていた男の様子が明らかに変化したのだ。
 頭を抱えて震えだし、ぶつぶつと何かを呟きだす様は、何かに脅えているようだった。
 男の様子は時間が経つにつれ半狂乱になっていく。
 口にしていた言葉も段々と呟くといった感じから、叫ぶといった感じに変化していった。
 
 「ヤツが……ヤツが復讐に来る。コロニーを破壊したみたいに俺達を殺しに来る」

 目は虚ろになり、端から見ていても気の毒になるほど脅えながら男は叫び続ける。
 その様子にほとほと呆れながらも尋問官は根気強くヤツというのが誰なのかと聞きながら、この場所は安全だと諭す。
 根気よく続けた結果だろう、幾分落ち着きを取り戻しつつ見えたその時、その言葉は発せられた。
 
 「本当だな? テンカワ・アキトはここまで来ないんだな? あの黒い跳躍する機動兵器はいないんだな?」
 「ん? そんな奴はいないし、機動兵器がいるなどという報告は受けていない」
 
 尋問官がそう答えると、安堵したというような表情を見せて男は気を失った。
 映像はそこで終了した。
 この映像の意味するところを悟った記者たちは皆こぞって自社に対し連絡を入れ、テンカワ・アキトなる人物の調査を依頼し始めた。
 記者達がスクープを掴む為に躍起になって行動を起こす様を眺める統合軍将校の表情は愉悦に歪んでいた。
 が、その表情も一瞬の事ですぐにその場を静め、最後の一押しを実行する為に表情を取り繕う。
 喧騒の中、顔も俯き加減だった為、表情の変化に気がつくものは皆無だった。
 
 「皆さん、静粛に。静粛にお願いします。まだ、統合軍から本日伝える全ての内容が発表されたわけではありません。
  もうしばらく我々の言葉に耳を傾けて頂けないでしょうか」
 
 統合軍将校の言葉に続くように、会場全体に配置されていた軍関係者達が場を静め始めた。
 尽力の甲斐あってか、場は急速に落ち着きを取り戻す。
 まだ発表する内容が残っている。
 その言葉が弥が上にも記者達のスクープへの期待を膨らませた。

 「今の映像と始めに見ていただいた映像と、その説明。以上の内容で気が付かれたと思いますが、2つの事件の犯人は同一人物だと我々は解釈しています。
  そう、謎の幽霊ロボットによる5つのコロニー襲撃と此度の強奪事件の犯人はテンカワ・アキトであると。そして、これからが本日の最も重要な内容になります。
  我々、統合軍はここまでに述べた事実と証言を元にテンカワ・アキトをA級テロリストとして指名手配すると共に、有力な情報の提供者に対し報奨金の交付を決定しました。
  軍としましても全力をあげ犯人確保と背後関係の調査を進める所存ではありますが、一刻も早い事件解決のために連邦市民の皆様方のご協力をお願い申し上げます」
 
 最後に深々と頭を下げる統合軍将校。
 続くようにその場にいた軍関係者達も頭を下げる。
 統合軍によって行われたアキトを晒し者にするための記者会見の映像はここで終了した。
 
 
 
 「茶番だな」
 
 記者会見の模様を写したウィンドウを消しアキトは呟く。
 
 「ラピス、映像の解析結果はどうだ?」
 「これ」
 
 ラピスから送られてきたウィンドウには2つの映像が映し出されていた。
 
 「映像の合成個所はここだけか?」
 「うん」
 「合成に使われた映像の流出先は解ったか?」
 「月の軍施設」
 「……そうか、ジンタイプを月に飛ばした時のものか」
 
 アキトは過去、初めて自らの意思でジャンプした時の事を思い出していた。
 2週間過去に飛んだが為に始めの何日間か軍に捕らえられ、妙な検査を受けさせられた記憶が思い起こされた。
 おそらくその時の資料として残された映像が今回使用されたものだとアキトは当たりをつける。
 
 「賽は投げられたということか。ラピス、アカツキのところへ行くぞ」
 
 
 
 ネルガル会長室に突如出現したボソンの煌きが収まると、そこにはアキトとラピスの姿があった。
 
 「そろそろ来る頃だと思っていたよ」 
 「お前の見解は?」
 「相変わらずいきなりだねぇ」
  
 いきなりの登場にも驚くことなくアカツキは慣れた風にアキトらしいと思う。
  
 「そうだね、プロス君からの報告だと保管庫内に研究所のシステムから独立した方式の監視装置の類が設置されていた可能性が高いって聞いてる。
  あと、2つ目の方に関しては芝居くさいね。一応、裏は取ってみるよ。君のほうで何か気が付いたことは?」
 「強奪時の映像だが、合成個所はバイザーの部分だけだ。使われた映像は俺がヨコハマあたりからジャンプして月で捕らえられていた時の物だ。
  ラピスに確認してもらったから間違いないだろう」
 「それはまた懐かしいものを引っ張り出してきたもんだねぇ。けど、そんなものをわざわざ見つけてきたって事は今回の件、僕らは嵌められたってことかな」
 「そうなるだろうな、俺を処理することで今までの失態の埋め合わせがしたいってところだろうが……今更だな」
 
 アキトがそう締めくくると同時に2人は笑い出した。
 アカツキは声を荒げて、アキトは声を押し殺し咽喉の奥でくつくつと笑い続ける。
 2人には今回の遅すぎる統合軍の対応が面白くてしかたがなかった。
 アキトが以前アカツキに持ちかけた計画の準備はほぼ整っている。
 実際、一番の問題が遺跡を手に入れることだった。
 それも解決した為、残すところはユーチャリスとサレナの改修と改良のみとなっていた。
 今更、統合軍やクリムゾンが動こうと2人にはさしたる影響はなかった。
 もしもの場合を考えて、立場を逆転させるだけのカードはすでに用意されている。
 敵が何をしてこようとも無駄だった。
 アキト達を皆殺しにでもしないかぎりは。
 
 「いつまでバカ笑いを続けるつもり? 外まで丸聞こえよ」
 
 呆れた表情でエリナが会長室に入ってきたことで漸く2人の笑い声が止んだ。
 あきれたエリナの視線を受けて、なんとかといった感じではあったが。
 エリナの視線は意外に堪えたのかアキトは居住いを正して素早く次の話題に話を移した。
 
 「アカツキ、ユーチャリスとサレナの状態は?」
 「エリナ君、テンカワ君に渡してあげて」
 
 話の流れは最終的にこの事柄に行き着くだろうと予測していたアカツキは前もってエリナに指示を出していた。
 ウリバタケとイネスが急ピッチで進めている作業の進行状況を纏めた資料を用意するように、と。
 簡単な受け答えと共に資料を受け取るとアキトはそれに目を通して行く。
 そして、その内容に度胆を抜かれた。
 
 「この内容は事実か?」
 「あっ、やっぱり驚いた? いや~、頑張った甲斐があったねぇ」
 「普通はこんな内容聞かされたら誰だって驚くわ」
 
 アキトが驚くのも無理なかった。
 そう思わせるだけの改良がユーチャリスには施されていた。
 
 「ミニプラントの搭載。実際、どれくらいの行程になるか解らないし食料の確保は重要な問題になると思ってね、火星で発見されたコイツを使える状態にして組み込んだってわけ」
 「食料の問題は俺も考えてはいたが、とりあえず冷凍保存できるものを積めるだけ積む程度しか思いつかなかったな」
 
 そう答えたアキトに対してアカツキは勝ち誇ったように続ける。
 
 「だめだよテンカワ君。成長期のラピス君にひもじい思いなんてさせちゃ」

 隣近所の知り合いに注意するかのようなアカツキの物言いにアキトは呆れつつも表情には出さずに答える。

 「その点は感謝する。だが、実際のところよくそんなことが可能だったな」
 
 アキトの疑問は当然だった。
 いかに、ネルガル会長といえど今回のような件に関しては思いついたからといってそう簡単に実行できる事ではない。
 どのようにして不可能を可能としたか気になるのは仕方の無い事といえた。
 
 「その答えは月臣君とプロス君かな。彼らに木連でプラントの管理を任されていた科学者の中で技術と人格、双方が信用できる人物をスカウトしてきてもらって、
  あとはそれにウリバタケ君とドクターをプラスして頑張ってもらったってかんじかな」
 「そういうことか、礼を伝えねばならないな。サレナの方はどうなんだ? これにはあまり詳しく書いてないみたいだが」

 ユーチャリスの話題を話している時のホクホク顔から一変して、若干曇った表情でアカツキはサレナについて話し始める。
 
 「IFSシステムは改良できたんだけど機体の方は新型となると流石に、ね……」
 「いや、気にするな。もともと無理を言っていることは理解していた。IFSが改良されただけで充分だ」
 「本当にすまないね。流石にこの短期間にフレームからとなるとね……。若干の改良と武装の追加は以前からウリバタケ君が考えていたものを形にしたみたいだけど、
  詳しい説明は本人から聞いてくれたまえ。あと、新型が出来なかった代わりという訳じゃないけどアルストロメリアを君専用にカスタム化しておいたよ。
  今後は状況に応じて乗り換えるようにしてくれたまえ。とりあえずは、そんなところかな」
 「すまんな、充分だ。作業完了の目処は?」
 「あと2、3日中ってところかな。ほとんど作業自体は終わってて、最終調整に入ってるって報告は受けてるよ。あとでドックに顔を出してくれば?」
 「そうだな。あと、1つ頼みたいことがあるんだが」
 「なんだい」
 「タカスギ・サブロウタ大尉に面会したいんだが可能か」
 「まぁ、彼は宇宙軍だから呼び出す程度は簡単だけど……用件は」
 「ルリちゃんとユリカに関して少しな」
 
 そう言ったアキトの雰囲気は酷く暗い物で、重要な案件である事は一目瞭然だった。
 怪訝に思ったアカツキとエリナは互いに何か知っていることは、といったニュアンスを込めた視線を交差させるも両者共思い当たる節はなかった。
 故に、1つの条件を付けることで了承の意を唱えた。
 
 「その場に僕らも同席していいなら手を回してあげてもいいよ」
 「かまわん。時間と場所は任せる」
 「オッケー、了解」
 「頼む。じゃあ、俺はラピスを連れてドックに顔を出したらそのまま戻ってかまわないな?」
 「っと、すまないけどドックに行った後でもう1度ここに来て貰えるかな」
 「会長、通常業務も結構溜まってるんだからどうでもいい理由だったら却下よ」
 
 長年の付き合い故か不穏な空気を感じ取ったエリナは即座に、というタイミングでアカツキの出鼻を挫く。
 
 「いやね、テンカワ君とゆっくり話せるのも今日くらいと思ってね、いっしょに飲みたいなぁ、なんて思ったんだけど……」
 
 今まで口をはさむ事のなかったエリナの突然の発言に先ほどまでの会長としての振る舞いは無く、恐る恐る窺いをたてるアカツキは滑稽にしか見えなかった。
 どちらが会長でどちらが会長秘書なのか疑いたくなるワンシーンだった。
 普段から見慣れているアキト達にとってはこの力関係こそ日常のワンシーンだったが。
 
 「仕方ないわね。このテーブルにある書類を今日中に終わらせたら許可してもいいわ」

 エリナは簡単に言うがその量たるや膨大という言葉が当てはまるものだ。
 アカツキの顔色は目に見えて悪くなっていく。
 だが、今を逃せばいつ時間が取れるか解らない。
 最悪の場合、2度とないかもしれないのだ。
 そう考えるとアカツキはやるしかなかった。

 「了解」
 
 沈んだ声で答えながらアカツキは膨大な量の書類に取り掛かる。
 そんなアカツキの姿に哀れみに満ちた視線を送りつつアキトは話の途中で眠ってしまったラピスを抱き抱えて部屋を後にした。
 
 

 会長室を後にしたその足でアキトはラピスをつれたままユーチャリスとサレナのあるドックへと向かった。
 今まで使用していた月の秘匿ドックではなく地球にそのドックはあった。
 ただ、月のドックと同様に艦の出入りはボソンジャンプでしかできない。
 ドックに到着したアキト達を出迎えたのは予想していた独特な騒々しさではなく正反対の静寂だった。
 そんな中でもウリバタケの姿を見つけるのは極めて簡単だった。
 サレナの前で忙しなく動いている姿はこの静寂の中では酷く目立つ物だった。

 「セイヤさん、ご苦労様です」
 「ん? アキトか、どうしたんだ? お前がドックにくるなんて。もしかして俺の腕が信じられないってか」
 
 黙っていたら際限なく話し続けそうなウリバタケの様子にこの人は変わらないな、と思うアキト。
 もう少しこの懐かしい感覚を味わっていたいとも思ったが、そうも言ってられなかった。
 
 「今日行われた統合軍の会見ですが、見ましたか?」
 「いや、朝からずっと作業してたから見てねぇな」
 「そうですか。内容を簡単に纏めると、俺に指名手配がかかりました。カウントダウン開始、といったところです。……なので仕上がりを見に来ました」
 
 それを聞いたウリバタケは驚くことなく、ただそうかと答えるとおもむろにサレナを見上げた。
 殺戮の為の兵器として血に塗れたブラックサレナを。
 
 「アキト、コイツはお前と嬢ちゃんを守るための盾だ。前がどうとかじゃねぇ。俺はそう思いを込めてコイツを仕上げた。
  簡単に死ぬんじゃねぇぞ。って、俺らしくないな、こんな辛気臭せぇ言葉は」
 
 そう言って照れ隠しに笑うウリバタケの助言にアキトは思う。
 世界中から不要な人間として扱われても、ナデシコで関わった数少ない人たちの中にはまだ己に言葉を送ってくれる人がいる。
 そのことがどれほど大切で、どれほど尊いものか。
 
 「いえ、ありがとうございます、セイヤさん。その言葉忘れません」
 「決意の出来たいい眼だ」
 
 アキトの頭をクシャクシャっと乱暴に撫でながら、忘れるなよと言った後は普段のウリバタケに戻っていた。
 マッドな雰囲気を前面に押し出しながら嬉々として改良の成果を語り始める。
 気がつけばいつのまにか側にイネスも来ており、同時進行でユーチャリスの説明も始められた。
 アキトがこの場所を訪れたのは昼過ぎだったはずだが、アカツキからの連絡が入って開放された時にはすでに深夜に近い時間になっていた。
 ユーチャリスの説明を聞く為に起きたラピスも、気が付いた時には再び夢の中へと旅立っていた。
 
 
 
 「君も今日は散々だったみたいだね」
 
 眠ってしまったラピスをエリナに預けた後、アキトは会長室に再び訪れていた。
 対面でソファに座る2人の目の前に置かれた氷の入ったグラスに静かに琥珀色の液体を注ぎながら話すアカツキの表情はどこか嬉しそうだった。
 互いに膨大な仕事、膨大な説明に苦しんだわりに悪くない一日だったと感じていた。
 そして、そんな一日の最後を彩るのが親友と呼べる人と酌み交わす酒。
 ここ数年、苦渋を舐め続けた2人への褒美の一時といったかんじだった。
 
 「そう言うわりに、顔がにやけてるぞ」
 「テンカワ君、君も人のことを言えないと思うけど」

 互いににやけ顔を晒しながらグラスを掲げる。
 
 「何に?」
 
 そう問うアキトにアカツキは迷うことなく答える。
 
 「計画成功の前祝と君の旅立ちに」
  
 2人の男は頷き、互いを称えるが如く同時に乾杯と呟きグラスからは甲高い祝福の音色が響いた。
 互いのグラスが空になるのが2桁に近い数字になった頃、アカツキは酔ったのか饒舌に話し出した。
 
 「テンカワ君、僕はね常々考えてたんだよ。火星の後継者の件が全て終わった後の事を」
 
 視線はアキトの方ではなく、片手で持ったグラスに向いていた。
 その眼は語る。
 それは叶わぬ望みだと。
 だが、聞いて欲しいと。
 
 「君をプロス君の後任にと思ってた。プロス君には会計一本に絞ってもらって君にSSをってね。
  虫のいい話とは思うけど、ネルガルの運営を君に協力して貰えたら、君と共に出来たら、とずっと考えていた」
 
 その言葉を聞きアキトも思う。
 確かにそれは夢だと。
 しかし、その日々はきっと面白い日々だと。
 そばにラピスがいて、イネスがいて、アカツキがいて、エリナがいる、他にも幾人かがいる。
 それはきっと、殺伐としていても悪くないと思えるだろう日々。
 
 「そうだな、全てが終わってまだ俺が生きていたら、もしこの場所に帰って来られたら、それもいいかもな」
 
 アキトのその返事を聞いてアカツキはハッと顔を上げる。
 
 「その言葉忘れないでくれたまえ。戻ってきた暁には君はネルガルSSのトップだからね」
 
 ありえないだろう可能性。
 だがゼロとは言えない可能性。
 覚えておこう、そう答えるアキトの顔はいつも浮かべる苦笑いではなく、久方ぶりに笑っていた。
 それに満足したアカツキはおもむろに立ち上がると、執務机に置かれた2つの細長い箱を手に取った。
 
 「これを君に。……SSトップ就任の前祝さ」
 
 そう言われては突き返すのも無粋とアキトは無言でそれを受け取る。
 箱の中身は日本刀だった。
 一振りはよく見かける白木の鞘に覆われたもの。
 もう一振りは鍔や柄巻といった細部まで手の込んだ造りで、さらに鞘の黒漆の表面には金と思しき物で花の意匠が施されていた。
 アキトは黒漆に包まれた刀を手に取り、するりと鞘から刀身を引き抜く。
 刀身には、見事としか言い様のない凄絶な草の三本杉の刃紋が刻まれていた。
 
 「気に入って貰えたかな」
 「あぁ」
 
 驚き未だ覚めやらぬといった様子のアキトに満足げなアカツキはもう一方を手に取り同じく刀を抜く。
 鞘から開放された刀身は、未だアキトの手に収まる物と寸分違わぬ物に見えた。
 
 「この刀は孫六兼元っていう刀をモチーフに、現代技術の粋と過去の技術を掛け合わせて創られた」
 「どういうことだ?」
 「過去の技術ってのはそのままだよ。モチーフになった孫六兼元を分析して、それがどのように鍛刀されたのか調べ上げた。
  そして、現存する刀鍛冶に協力してもらって過去の鍛錬法を再現してみたんだ」
 「そんな事が可能なのか?」
 「ん~、伝統的な物だから研究を続けていた刀鍛冶がいたからね。その人にうちの解析技術を使って協力したらなんとかできたってかんじかな。
  あと言い忘れてたけど、孫六兼元を選んだのはこの刀が折れず曲がらずよく斬れるって有名だったから」
 「そうか。で、現代技術というのは?」
 「単分子結合技術って聞いたことある?」
 「いや」
 「まぁ、簡単に言うと分子と分子の結合を同じ分子サイズの物でなら切り裂く事が可能なのではって事らしい」
 「それは理解できるが、刀には厚みがあって分子サイズとは言えなくないか?」
 「確かに。けどそこは刀身の側面、そこの摩擦係数をコーティングによって限りなくゼロに近づけることで不可能を可能にした。ドクターの頭脳は流石だね。
  その結果、ドクターの話によるとこの刀で切断できない物は理論的には存在しないってことだよ」
 
 部屋の証明に照らされてギラリと輝く刀身は今のアカツキの言葉を肯定するかのようにアキトに対して己の存在を主張する。
 
 「まっ、実際には何を斬るにもそれなりの技術が必要らしいけどね」
 
 そう言ってアカツキは未だ刀身を、魅入られたかのように眺め続けるアキトに視線を向ける。
 
 「月臣君の話だとテンカワ君も抜刀術に関してかなりの腕になったって聞いたし。それならこれも扱えるんじゃないかと思ってね。
  こういった物は使わないに越したことはないけど、必要になる事もあるかもしれないし」
 「そうだな、ありがたく頂いておく」
 「あ~、あともう一つ追加説明。鞘の花なんだけどね、ネモフィラって花で和名が瑠璃唐草。花言葉は私はあなたを許す、どこでも成功ってのがあるね」
 「ルリちゃんか?」
 
 アカツキからのちょっとした嫌がらせ。
 鞘のデザインの案を出したのはアキトの想像通りルリ。
 アキトは一人ではない。
 仲間の存在を忘れるな。
 そんな思いを込める為にルリに協力してもらったものだった。
 
 「そ。けど、どんな花が良いか聞いたのは君が会う前だから花言葉の2つ目は偶然」
 「そうか」
 
 愛おしいそうに鞘を見ながらアキトは刀を鞘に戻す。
 それに続くようにアカツキも鞘に刀を戻した。
  
 「さて、渡す物も渡したし、もう1回飲みなおすかな」
 
 そう言って2つのグラスになみなみと琥珀色の液体を注ぐ。
 そこからの2人の会話は殺伐とした内容のものや、仕事に関することはなくなり、昔語りだった。
 初めて会った時の印象はどうだったかや、ナデシコにいた頃の話など。
 慣れない酔いに四苦八苦しながらもアキトはこの時間を楽しむ。
 アキトにとって久方ぶりだった、悪夢に魘されない夜は。
 もう2度と来ないかもしれないこの時間を2人は存分に謳歌する、気の済むまで。
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

  1. 2007/04/01(日) 23:20:03|
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