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日々平穏

二次小説とか日記を気まぐれに書いてみるつもりです。

闇の旅路 16

 「眠いな」
 くぁっと周りの目も憚る事なく欠伸をするエヴァンジェリンは、涙に滲む視線の先にある光景を捉えていた。



 「アレか」
 「あぁ、アレだ」
 アキト、エヴァンジェリン、両名の視線は一見、早朝故に気だるそうに見えて、その奥にある種の冷たさが含まれていた。まるで、古くからの因縁を持つ怨敵を見るような。
 だが、じっと見続ける内、徐々に二人のそれは鋭さより呆れが目立つようになっていく。それは視線の先、あまりに年相応なやり取りを始めたその一団に対し、その程度の輩に頭を悩ませている事実に馬鹿らしくなってきたから。
 故に、エヴァンジェリンはまだしも、横を歩くアキトは直接にそれを目にするのは初めてだった事もあり、どうコメントしたものか非常に迷っていた。
 「まぁ、なんだな。コメントに困るのも解らなくもない」
 「なら、一言だけ」

 ――――子供以外の何者にも見えん。

 とだけ、アキトは口にした。
 そしてその言葉通り、アキト達の見つめる先には、友人達と共に朝の通学を楽しむ生徒達の姿が映し出されていた。一見すればほのぼのとした光景なのだが、其の中、ある人物の肩書きを耳にした時点で、それらは少し違った光景で見えてくる。
 「報告書を読んだ限りでは、それなりの能力は持っているとの事だったが?」
 「まぁ、学力に関しては問題ないな。魔力も阿呆みたいな量だ。ただ、先達として教えを授けるとなると……疑問が残るな」
 言い争いが終結したのか、一団は常識外の脚力でもって瞬く間に豆粒の如き大きさになり、すぐに人ごみに紛れ判別がつかなくなった。
 「私は、あまり関わりたくない」
 「そう、か。なら、ラピスの役割はユーチャリスからの支援のみに限定しよう」
 僅かとはいえ、関わりを持った中で相容れないものがあったのか、ラピスの言葉には常にはない慳が含まれていた。
 「元々これは私の復讐だ」
 「考え直さないか?」
 「同じように復讐に人生を懸ける男の言葉とは思えんな」
 気だるさが吹き飛び、エヴァンジェリンの視線は睨み付ける様なものになっていた。
 「俺にも立場があるからな」
 「解っているさ。先の言葉は聞かなかった事にしてやる」
 右にラピス、左にエヴァンジェリン。間に挟まれるアキトだからこそ、両者の表情から僅かながらも内情を感じられた。
 ラピスはこれまでの時間で積み重ねた関係を鑑みるに、もう少し踏み込みたいが立場及び、忌諱する対象故に踏み込めない。
 エヴァンジェリンにしてみれば、この復讐に関してだけは、己の手で完遂する事に意味があった。だが、状況を鑑みるに、学園の介入に対して個人の力では抗いきれない。目的の為に手段を選んでいる状況ではない歯痒さ。
 それぞれが、互いにこれまでに構築した関係から、出会った当初には考えられなかった面を見せ始めている。
 そしてそんな二人を見たアキトはというと、ラピスを不安にさせた事に対する一方的な憤りを感じつつも、人間的な成長のきっかけを齎した事に対する謝意も感じていた。
 「そういえば茶々丸、お前はアレをどう思う?」
 ここまで一人、三人の一歩後ろを歩いていた茶々丸。話を聞くだけで意見を口にしていない彼女に対して、エヴァンジェリンはおそらくさらに違った視点で意見を出すだろうと期待して言葉をかける。
 「そうですね。能力の査定は、皆様方のものと大差ありません。ですが、思考に対しては、麻帆良の環境に頼りすぎていると判断します」
 「ふむ、確かにそれに関しては、誰も口にしていなかったな」
 教育実習生であった時分の事を指して、皆がかの頃の少年の行動を思い起こす。
 そして一様に皆が皆、顔を顰めることになった。
 「……よく、処分されなかったものだ」
 麻帆良における結界。超常現象に対して認識が曖昧になるというそれのおかげで、大半の彼の行動はちょっと風変わりなものとして記憶されているが、本来これはありえないといっていい。
 「最近だと、図書館島において平然と"魔法の矢"の呪文詠唱を行った記録があります」
 「そういう所が、子供と言われる所以かな。危急の際における対処能力の欠如、というか経験がなさすぎる。そういった教育が飛び級で短縮された弊害か?」
 アキトが疑問系で最後を濁したのは、魔法使いの教育がどういったものか知らないからだが、それはエヴァンジェリンが首を左右に振る事で一蹴した。
 「あそこまで欠如してるのは、昨今でも珍しいさ。同じガキでも此処にいるのはもう少しまとも――――っと、今はここまでだな」
 アキトは袖を引かれることで、エヴァンジェリンは茶々丸に促されることで、目の前に下駄箱が迫っている事に気が付いた。
 「まぁ、とりあえず、無様は晒さんようにな」
 そう言葉を送られたのが、麻帆良女子中等部の校庭において朝礼が始まる15分程前のことだった。


 
 「さて最後に、皆も知っていると思うが、理科の榊原先生が諸事情により本校を離れる事に相成った。ついては、彼女の後任として二人、高等部から武山先生、大学部から天河先生が君達に教鞭を執る事となった。両名共、前職場では授業に定評があり、評価も高かった。そんな彼等から十分に知識を学び取るように」
 中にはそれぞれの評判を知る者も居たのだろう。名前を呼ばれると同時に頭を下げるアキトと武山に集まる視線の中には、そんな人気教師が態々このような人事に当てられた事への驚きが含まれていた。
 「おっと、忘れておった。天河先生に関しては、知っておる者もおると思うが広域指導員も兼ねておる。この女子中等部にはそのようなお転婆はおらんだろうが、お世話になる事のないようにの。では、以上で全校朝礼を終了する」
 眉に隠れた瞳を器用に片側のみキラリと輝かせ、一同を睥睨した後、言葉通り朝礼は解散へと向かった。
 簡単な学園長の挨拶と重要な連絡事項。麻帆良の全校朝礼は生徒に優しく、このような簡単な内容のみで長々と話を聞かせる事は少ない。
 何故なら、女子中学生の集中力など高が知れている。長々と話を聞かせて弛むよりは、と考えられての事だった。
 だが、30分に満たない朝礼でも口々に雑談を啄ばみながらの移動は、人数が人数だけに圧巻といえた。そもそも、女子中学生という生物は、大人達が考えるよりさらに不可解な生き物だ。箸が転がっても、とは言い過ぎかもしれないが、アキト達から見れば何が面白いのかと疑問に感じることなどが多々あった。
 「どうなることやら」
 先行きに対する不安。それが形に形になって口から出てしまう。
 実際の所、生徒達に紹介された時こそ如才なく立ち居振舞って見せたアキトだが、その内心は不安の方が圧倒的に多かった。
 そもそもアキトの大学部での立場は偽装に近い。客員教授とはなっているが、講義をするとはいっても年に片手の指で数えられる程度。しかも内容はといえば、ユーチャリスに蓄積されているデータを小出しにしているにすぎない。
 つまりは、イネスがアキトの身体に対する不測の事態に対処するために残した資料を、この時代のテクノロジーに合わせて代用しているだけなのだ。当然、アキト自身もそれらを説明できるまでに理解はしているが、自身の成果ではないので胸を張れるような理由はどこにも存在しない。
 それなのに、この分野における権威などと囃し立てられるのは甚だ困る以外になかった。
 年に数度の講義においては、他府県からも受講者が集まるのにも、ほとほと辟易していた。
 かといって今更、辞める事も難しい。
 「アキトさん、どないしたん? えらいややこしい顔しとるけど」
 「木乃香か……いや、知っていたつもりだが、女子中学生というやつに圧倒されてな」
 ふむふむと可愛らしく首を傾げる少女を見やり、アキトは無駄な悩みを彼方へ押しやった。今更、考え直した所で、麻帆良を離れるでもしないかぎり解決できない問題に悩んでみても、無駄なのは目に見えている。なにより、目も前のほんわかとした少女を見ていると、その様な些事に悩むのは人生を損している気分にさせられたからだ。
 「なんや、そないな事に悩んでたん? 大丈夫。アキトさんやったら絶対に余裕やって」
 「皆が皆、木乃香やラピスみたいだったら簡単だっただろうが、そういう訳にはいかないだろ?」
 「まぁ、そらそうやけど……大丈夫やって! うちが保障したる」
 後ろに連れられてやってきたラピスまでもが、木乃香の根拠のない説得に同じく首を縦に振る。
 「けど、びっくりやったな。まさか、アキトさんがウチらの学校で先生やる事になるとは思わんかったわ」
 「それに関しては、俺も驚かされたな」
 「あぁ~……おじいちゃんが迷惑かけたみたいで、ごめんな」
 急にしゅんとうなだれる木乃香を見て、アキトは少しだけ自分をこの厄介事へ放り込んだ老人への溜飲が下がるのを感じた。
 「木乃香が気にする必要はない。そもそも、俺も納得の上でこの案件は受けたからな」
 「ほんまに?」
 「あぁ、本当だ」
 アキトとしては本心からの言葉だったのだが、今ひとつ不安を払拭しきれなかったのか、木乃香の視線は伺うようにラピスへと向けられていた。
 その事に気が付くと、―――ほんの数瞬ばかり―――アキトとラピスの視線が絡まる。時間にしてみれば秒にも満たない。
 だが、それだけで二人には十分だった。
 「大丈夫。アキトは嘘を言ってない」
 「ラピス、ほんまに」
 「ん」
 抑揚に頷いてみせるラピスを見て、漸く納得したできたのか、木乃香の顔に笑顔が戻る。
 それを見たアキトは、ラピスに出来た初めての友達という存在に頬が弛むのを感じた。言ってみれば、かつてのルリにとってのユキナのような存在だろうか。世俗に疎い、というか興味を持たないラピスに対して、なにかとそちら側との接点を作ってくれる木乃香という少女の存在は、ラピスにとって非常に有益なものになっていた。
 「さて、良い具合に生徒も捌けてきたし、お前達もそろそろ教室へ戻れ。この後の予定は身体測定だったな?」
 アキトの指摘に大業に頷いてみせる木乃香。
 「女の花園で行われる神秘の行事。アキトさん、役得やなぁ」
 「馬鹿な事を言ってないで、さっさと行け!」
 普段からは考えられない程に声を荒げるアキトから、木乃香は黄色い悲鳴を伴いながら彼の視線から逃れるように駆け出す。当然、ラピスの手を引きながら。
 その様を、アキトはどこか尊いものを慈しむように眺めた。
 麻帆良に通い始めた頃こそどうなるかと心配したが、なるようになるものだな、などと感慨を抱きつつ。
 と、そんな走り去る二人を見守るアキトの視界の端、上背のある少女が映り込む。
 小走りに進む二人から付かず離れず、一定の距離を保ちつつその後を追うようにして同じく校舎へと移動していく。
 前の二人が下駄箱へと消えてゆき、同じく下駄箱へと差し掛かるさなか、はたと立ち止まるとその少女はアキトへと軽く首を傾げて目礼する。そして、先の二人と同様に校舎へとその姿を消した。
 この少女だが、木乃香とラピスがアキトと戯れていた時から、先と同じく一定の距離を取りつつ二人に張り付いていた。
 「仕事熱心なのは良い事だな。さて、俺も行くか」
 呟く様に言葉を残し、アキトも同じく仕事に取り掛かる為にこの場を後にした。



 先の殊勝な言葉と反して、アキトが向かった先は職員室ではなく、学園都市において桜通りと名づけられた場所だった。
 元より、本日の中等部の予定はアキトが木乃香達に忠告した通り身体検査だ。
 女子中等部という事もあり、この行事に際してアキトが手伝える事などほとんどない。というか、アキトとしては積極的に学び舎から距離を取りたいとさえ思っていた。
 「なんとなく昔を思い出すな。おもに、振り回されていた記憶ばかり……」
 哀愁漂う背中は、天真爛漫なかつての妻の破天荒な行動を思い出したのか、妙に煤けている。楽しい記憶も多いが、それを補って余りあるはた迷惑な記憶が彼女との記憶の大半を占めていた。それを笑ってしまえるのは、アキトにとって彼女が過去の人と整理が付いているからなのか。
 本人もそこまで深く考えた事がある訳ではないが、ふとそんな過去の様々な情景がアキトの脳裏を駆け抜けた。
 それは、女子中学生達の底の見えない活力に彼女のイメージが重なったからか。はたまた、これから被るだろうトラブルの数々が目に見えている所為か。アキトには判断が付かなかった。
 「まぁ、長くとも一年たらずだしな」
 「何がですか?」
 「いや、学園での教師の真似事をする期間だ」
 「あぁ、その件ですか。確かに予定ではその程度ですね。ですが、学園長も何を期待してあなたに教師なんてやらせるのでしょうか? まさか、ですが、未来ある純真無垢な子供に関わらせれば、復讐なんていう後ろ向きな考えを正せる、なんて考えているのでしょうか」
 「さてな……俺自身は遺跡に関して妥協するつもりは欠片もない」
 滲み出る負の感情。
 それに対してアキトに疑問を投げかけた女性は怯む事も脅える事もなく、泰然とした態度を崩さない。
 しかして、彼女の背に背負われた存在は違った。アキトの背筋の凍るような気勢に当てられたのか、意識のないまま背の上で器用に身を竦めて見せた。
 「まぁ、そんな事は今話すことじゃない。さっさと荷物を受け取ろう」
 「そうですね。私としても、あなたの立場を不利にするような事は望みません」
 そう言って女は背から少女を下ろすと、そのままアキトにその子を預ける。
 荷物、というのはこの少女の事だった。
 「佐々木まき絵、だったか」
 「はい。昨日、エヴァンジェリンの吸血対象となり、現在は貧血で気を失っている所です。身体に異常は見られず、専門家が検査したとしても貧血以上の検査結果は出てこないでしょう」
 「なら、問題ないという事だな」
 はい、と頷く女の顔には、やはり先ほどと同じく感情の色が見られない。
 「では、私はこれで」
 「あぁ、すまないな、サレナ」
 「いえ、私にはラピスと同じくあなたをサポートする事こそが存在意義ですから」
 「それでも、だ」
 「――――あ、ありがとう……ございます。アキト」
 返答に詰まってしまった少女は、此処で始めてその表情を僅かながら崩してみせた。
 驚き、戸惑い。
 彼女がブラックサレナに搭載されていた頃から考えれば、少なくない回数を経てきた感覚だ。だが、彼女が今現在の五体を手に入れてからは、さらに嬉しいという感情が加味されるようになった。
 オモイカネシリーズの簡易版である彼女にとって、そのような感覚を得られるのは成長しだいでは考えられなくはない。けれども、こうまで早くそれが成せたのは、茶々丸シリーズの体を得たことが上手く作用したのではないかと推測されている。
 「さて、あとは」
 心なし弾んだ足取りで取って返すサレナを背に、アキトも再びその足を学園へと向ける。
 学園長からの依頼で、エヴァンジェリンの動向を逐一報告するようにと命令されたアキトは、その件に関わる後始末も仕事に含まれていた。
 面倒な、と感じつつも仕事であるなら動かなければならない。もちろん、保護した経緯を学園長へと報告する義務もあった。
 「あぁ、学園長か。今、佐々木まき絵を保護した」
 サウンドオンリーと中央に表示され、何もない空間に唐突に現れたのは、アキトにとっては使い慣れたコミュニケのウィンドウだ。
 「これから保健室へ運んだ後は、彼に伝えればいいんだな? それで彼が気が付くかどうかで今後の動きを決める」
 ここまで、あらかじめ予測された範囲内で進む出来事に対し、これからの予定を確認。さらに今後、派生しうる可能性のあるルートを互いに確認しあい、予定調和の元にこの通信回線は閉じられた。
 会話が終わっても、アキトの視線は消え去ったウィンドウの場所に固定されて動かない。
 ここ数年、爆発的にシェアを拡大し、携帯電話に取って代わってこれが通信モデムの新たな形として定着しつつあった。
 世に広めたのは当然アキトだ。
 何事を行うにしても金は重要。その問題を解決するために、アキトが選んだ手段がコミュニケの普及だった。
 この時代にそぐわない。無駄に技術を革新させてしまう事は理解していたが、それでもアキトはこの件に対して決断を下した。何より、ちまちまと学園からの給金だけで細々と活動をしていては、アキトの捜し求める遺跡を発見するまでにどれほどの時間が掛かるか検討もつかなかったから。
 もちろん、関東魔法協会に協力を仰いではいるが、自身でも何かしら対策を行わなければならない。そんな強迫観念から、アキト個人でも何かしら行動をせずにはいられなかった。そしてそれには、どうしても莫大ともいえる資金が必要だった。
 しかし、今でこそ成功を収めたコミュニケを扱う事業だが、それを既存の業界へ売り込む際はアキトにしても酷く緊張を強いた。そもそも、真っ当なサラリーマンを経験した事のないアキトにとって、アポを取って商品を売り込むなど未知の領域。上手くいくかどうか不安の方が大きかった。
 だが、それが杞憂とわかるのは、プレゼンの場でデモを行うまでだった。
 全く時差が出ないリアルタイム通信。しかも、音声だけでなく画像までもがスムーズに映し出される。そのあまりに革新的な技術に、瞬く間に異様な熱気がアキトを圧倒したのはすぐの事だった。
 その後は、とんとん拍子に契約まで漕ぎ着け、アキトの元には多額の契約金が手に入った。そして、今も特許やその他の利権がらみで膨大な金額がアキトの元に流れ込んでいる。それこそ、復讐を諦めたなら人生を数回繰り返した程度では使い切れない金額が。
 と、そんな過去の記憶を掘り起こしてしまったのは、今日がいろいろな転機を迎えた影響か。
 問題なく佐々木まき絵を保健室まで送り届けたアキトは、決められた通りにネギの元へと向かう道すがら、麻帆良に辿り着いてからの慌しい日々をいくつも思い出していた。



 一人、また一人と保険委員の指示に従い、計測を進めていく。
 ただそこは、ちょっとした悪戯や笑いを交えながらのもので、絶えずそこかしこで引き攣るような声が聞こえていた。
 測定結果を意図的に足して聞かせるなど、女子中学生ならずとも、世の女性にとってこの手の数値はグラム単位で気になる所為か、結果に皆が一喜一憂してみせる。
 そんなお祭り騒ぎの中に一角、少し違った話題で盛り上がる一段がいた。
 内容はといえば、女子寮内において最近とみに話題に上げられる"桜通りの吸血鬼"について。
 事の始まりは、集団になりつつある中の一人、柿崎美砂がその噂を口にしたことだった。
 不特定多数に向けて発せられたこの内容に、初めに反応した面々は興味なさげに流してしまうも、耳ざとく聞いていた他の面々が次々と話題を盛り上げていく。
 オカルト好きな面々、怖いもの見たさの面々、信じないが故に否定的な意見を述べる面々、そのあり方は様々。ただ、その中の一人に近衛木乃香が混じっていたが故に、ラピスは一段に混じることはないが、盛り上がる様子を視界には留めていた。
 「ねぇ、アレは何が面白いの?」
 「そうでござるなぁ……アレは、怪談話をしているようなものでござるよ。何が、と問われれば、お化け屋敷を楽しむが如く、そうそう体験できない非日常を身近に感じてみてそのギャップを楽しみたい、といったところでござろうか」
 ラピスの正面には誰もいない。
 特定の話し相手に向けられたのではなく、独り言と思われた言葉に対し、返答は彼女の真後ろの少女から齎された。
 「楓も、面白い?」
 「拙者は、件の真相を知っておる故、未確認生物に対する好奇心は沸かぬでござるな」
 そう、と答えると、ラピスは再び視線だけを一段へと向けつつ、測定の順番を待った。
 視線の先、木乃香が吸血鬼の正体を黒板にでかでかと描き出す姿がある。描かれたのはまさしく、空想の産物であるチュパカブラ。ネタとして盛り上がるには、中々の出来であった。
 「あんな生物いるの?」
 「いや、流石に拙者もチュパカブラの実物は見た事はないでござるよ」
 「エヴァは?」
 声を掛けた先、同じく測定を待つはずの同級生は、いつのまにかラピスの傍を離れ件の一団への接近を試みていた。
 一直線に向かうのは、神楽坂アスナの居る場所。
 それをぼんやりと眺めつつ、ラピスは思索する。
 事の真相を知っている彼女は、桜通りの吸血鬼の目指すべき目標を知っている。それ故に、その目標が達成されることを真摯に願う。何より、ラピス自身が――当時は理解できていなかったが――囚われの身を経験した事があり、幾ばくかの経緯を経て自由を得た身だから。
 可能ならば、かつてアキトがラピスを救い出したように、彼女もエヴァンジェリンの目的の為に手を貸すのは吝かではなかった。たとえ彼女の目的が、自身の手で勝ち取ってこそ価値があるのを理解していても、結果が伴わない終焉を迎えるよりは、達成される方が重要だと考えていたから。
 だが、そう説いたはみたものの、エヴァンジェリンは首を縦に振らなかった。結果のみならず過程にも意味があると、にべもなく協力は拒否された。
 ラピスは、断られた事は残念に感じるが、自身の経験からか怒りやそれに類する感情は浮かんでこなかった。どちらかといえば、彼女にしてみれば共感の方が強かったかもしれない。もっとも、断られるだろう事はラピス自身も承知のことではあったが。
 第一、アキトの立場を考えれば、エヴァンジェリンに協力などできるはずがない。そのことを理解した上で、ラピスは彼女へと協力を申し出た。断られる事を前提に。
 それは自己満足に端を発する行動だったのだろう。出来ないと解りきった現実を自分の都合の良い形に作り変える事で、自身の心を満足させようとした。 
 ラピスにとって、自分で言葉にしておきながら、その言動に込められた真意に自信が最も驚愕した。

 ――――気持ちだけ受け取っておこう

 驚き呆然とするラピスを前にして、そう穏やかにエヴァンジェリンは返事をしてみせた。腕を組み、酷く愛おしいものを慈しむような雰囲気を纏いながら。
 叱責されても文句の言えない事を口にした己に対する反応してあり得ないソレは、ますますラピスを困惑させた。自身が己の心の安定の為にとった浅はかな行動にしてもそうだが、何故にエヴァンジェリンがそのような凪いだ表情を見せるのか理解ができなくて。
 ただ、醸し出す雰囲気に反するように、ちらと一瞬だけ睨み付けるように片隅へ向けられた視線だけが異様に歪に感じつつも。
 「ラピス殿」
 思考に深くはまり込んでいた意識が、名を呼ぶ声で現実へと呼び戻される。
 もう少し考察を続けたかったラピスではあったが、余程の事態でなければ思索にふける彼女を楓が遮る事はない。その事をよく理解しているだけに、無視してまで考え事を続ける事をラピスは選ばなかった。
 「なに?」
 「いえ、何やら困った事態になったようで」
 楓が促す先には、開け放たれた窓があった。
 別段、有象無象に自身の下着姿が見られた程度でうろたえる事のないラピスだが、視線の先にアキトが居ては些か事情が異なる。
 「どうしてアキトが?」
 「聞こえてきた内容によると、佐々木殿が桜通りで倒れていたのを保護したので伝えに来たそうでござるよ」
 「桜通りで?」
 「そう、桜通りでござるよ」
 誰彼が、にはラピスは興味がない。着目するべきは、桜通りという場所にあった。
 少し前にクラスの面々が件の場所に出没する吸血鬼の話題で盛り上がっていただけに、その印象も強い。だが、ラピスがその場所に拘ったのには、噂とは別口のソースが存在した。
 「となると犯人は」
 「ラピス殿の推測通りではないかと」
 言葉を交わしながらも二人の視線は、自然と同じ方向へと向けられる。
 視線のその先には、膝下まである緩く波打つ金髪を流れるままにした少女が、口角を微かに吊り上げながら笑う姿があった。 




 一重に、アキトにとって事態は困った方向へと発展していた。
 担任にのみ伝えるつもりだった内容を――扉を挟んでいるにも関わらず――耳聡く聞きつけたA組の面々が、自分達も詳細を聞こうと一斉に廊下へ身を乗り出してきたからだ。
 これだけを聞くと、友達思いの情に深い面々だと美談になるところだが、この場の面々は一味違った。
 思い出して欲しい。
 本日は始業式で、その後の予定は身体検査だ。
 アキトが担任教師へ連絡事項を伝えにきた時分は、まさしく身体検査の真っ只中。当然、被検査対象たる少女達はそれに適した服装になっている。
 その現状を鑑みずに前述した行動を実行したとなると、当然行き着く結末は一つ。
 ここでもう一つ思い出して欲しい。アキトと件の担任教師の性別である。それは、記すまでもないが当然ながら男。
 これらから導き出される結末は、想像に難くない。
 幸い、アキトは彼女らが廊下側へと移動してきた事に感付いていたので背を向ける事でギリギリの対処をしたが、もう一人はそうはいかず、廊下中へと劈くような悲鳴が響き渡る。
 と思いきや、この場で悲鳴を上げたのは予想に反して担任教師の方であった。
 対して友達を心配した面々は自身等の姿など構う事無く、詳細を求めて担任教師へと詰め寄っていく。
 必死に担任教師が服を着るよう注意を促すも、まずは容態をと迫る生徒達。
 立場云々よりもまず、人としての節度を説きたくなる。と半ば呆れつつも、アキトは悲鳴を上げ続ける同僚を宥める役目を担うことになった。ほとほと呆れた初仕事の顛末に、溢したくもないため息を落とすアキトがその場を落ち着かせるのには意外な労力を必要とした。
 "まるでナデシコだ"とは、アキトがこの一連の出来事への対処なかばで思った感想だった。
 「初日からご苦労だったな」
 「全くだ。自分が通っていた頃は、考えもしなかったが、中学校の教師というのは心労の耐えない職務だったんだな」
 全校生徒が身体検査を終えて落ち着きを取り戻した校内は、生徒達に下校を促し随分と静けさが目立つようになっていた。
 といってもまだ昼日中、漸く太陽が中天に座したところで、明日になればこの時間帯も騒がしい喧騒に包まれるだろう。本日の静けさはまさしく嵐の前の、というものだろう。
 「だが、終わってみれば、あの騒がしさが懐かしくなる……」
 「嫌になったか?」
 「いや、昔を思い出しただけだ」
 「ナデシコ、か」
 郷愁なのか、心ここにあらず、そう見えなくもないアキトは、ただじっと空の彼方へ意識を向ける。それが、あの懐かしい日々を慮ってのものなのかどうか、この場を共にするエヴァンジェリンには解らない。
 ただ、この麻帆良の地で共に築いたここ数年の記憶が、その頃に劣らぬ充実した日々であれば、とは願う。
 「それで、ただ不良生徒を追いかけてこんな場所まで来た訳ではあるまい。何か用か?」
 こんななどと揶揄したが、今現在アキトとエヴァンジェリンがいるのは中等部校舎の屋上であり、彼女が普段から昼寝の場所として重宝している場所である。決して、そう卑下するほど居心地の悪い場所ではない。今、肩を並べて腰を下ろしているのも、程よく建物の影になり、これからの季節は心地よい風が通り過ぎる絶好の昼寝スポットになることは間違いない。
 「彼に対するスタンスをどうするのか、と思ってな」
 「学園長からの指示か?」
 「あぁ、俺にも立場というものがあるからな。毎度毎度、お前に恩があるからといって、お目溢しするには今回の件は難しい面が多すぎる」
 少しとして迷う姿を見せずに、アキトは直接的な言葉を選んだ。
 それこそが、エヴァンジェリンと会話する際に最も効果的な事を知っているから。
 「スプリングフィールドの名は、私が考える以上に魔法使い達にとって重いということか」
 ふむ、と頷く事ひとつ。
 「だがな、私としても呪いを解呪する機会をみすみす棒に振るつもりはない。今の未熟な時にこそ、労力をさほど必要とせずに目的を達成できる好機なのは火を見るよりも明らかだ。それを見過ごすような殊勝な存在ではないぞ、闇の福音と恐れられた私はな」
 「そうすると、俺としても取りうる立場は限られてくる。それでも?」
 「それでも、だ。たとえお前と敵対する事になろうとも、私は諦めるつもりはない。それほどに私は自由を渇望しているという事だ」
 いつのまにか、二人の視線が食い入るように交錯していた。
 一触即発。
 当事者以外がこの場を見れば、そう感じた事だろう。
 「本気のようだな」
 「あぁ、もちろん」
 「なら仕方ない。監視レベルを引き上げさせて貰う」
 そう言って、アキトはユーチャリスへとすぐさまその意向を伝えた。
 自身の言葉が偽りでない事を、必要ならばこれまでの関係を捨てる事も厭わないと行動で示す為に。
 それは、裏返せばまだ引き返す事が出来ると暗に伝えてる事は、エヴァンジェリンも当然に理解していた。けれど、解っていてもこの件だけは譲ることが出来なかった。
 「ではな。茶々丸にはすまないと伝えてくれ」
 「承ろう」
 真っ直ぐに校舎へと続く扉へ向かうアキトの背中は、来た時と同様に真っ直ぐと伸ばされており、微塵も揺らぎを感じさせない。そのこが、彼とエヴァンジェリンとの関係の決定的な決裂により真実味を持たせた。
 「アキト」
 扉に手を掛けるほんの直前、見計らったようにエヴァンジェリンが最後の言葉を掛けた。
 「お前との時間は、ここ数十年の中で最も輝いていた。ありがとう」
 アキトからの返事はなかった。
 ただ、校舎へと通じる扉が閉じる音だけがエヴァンジェリンの佇む場所まで響く。そして彼女はこの日、屋上が夜闇に染め上げられるまで、じっとアキトの姿が消えた扉を眺め続けた。



 「胸糞悪い気分だな」
 数時間前の事が未だに尾を引いているのだろう。この僅かな時間では、エヴァンジェリンの心情が常の状態に戻る事はなかった。
 闇に染め上げられ、煌々と輝く満月に照らし出されても、荒んだ心は癒されない。
 普段なら、どんなに苛立つ出来事があったとしても、魔力を僅かながら取り戻せる満月の夜は大抵の事に目を瞑る事ができていた。
 その事実が、彼女にとってテンカワ・アキトという存在が、自身で考えていたよりも深く内面に食い込んでいた事を否が応でも自覚させた。
 「ん?」
 何かをする、という気分でもなく、吸血鬼にとって力の象徴ともいえる月を眺める気分でもない。このまま今日は不貞寝でもしてしまうか。
 そう考えながら、どこともなく視線を巡らせた先にそれはいた。
 昼間の教室で桜通りの吸血鬼の話題を耳にした所為か、平素以上に脅えた姿を晒す少女――宮崎のどか――が。
 「気分転換程度にはなるか」
 思いついてからの行動は早かった。
 アキトの監視があるとはいえ、未だ学園長からの直接的な苦言はない。ならば、まだ吸血行為を妨げる程の状況ではないと判断できる。
 そして幸いにも、先ほどまでは今の境遇から鬱陶しいとさえ感じた満月の恩寵があるので、魔力には困らない。さらにいえば、アキトの影響か、彼女は魔法薬のストックを常日頃からある程度は持ち歩くように習慣づけるようになっていた。
 「宮崎のどか、悪いが自身の不運を呪え」
 手持ちの装備を確認し終えると、エヴァンジェリンは一息に屋上の欄干を飛び越えながら、眷属たる蝙蝠を集めたマントを夜空にはためかせた。
 見る見るうちに空が近くなり、反して地が彼方へと離れていく。
 そうしていると、人間という種の頚木から解き放たれる感覚に、僅かながらも荒涼としていた気分が癒される気がしてくる。
 「もう少しでこれが当たり前になる……そうすれば――――」
 言葉にしてしまうと泡沫の夢と消えてしまう気がしたのか、エヴァンジェリンはその先の言葉を最後まで口にしなかった。それ程に、彼女は此度の件に並々ならぬ思いを抱いていた。

 そして、二人は噂の桜通りへと辿り着く。
 一人は胸に脅えを抱いたまま。
 もう一人は寂寥感を抱えたまま。
 
 酷く周りを気にしていた為か、のどかがマントの翻る音に気が付くのに時間は掛からなかった。
 ただ、音源が上空からとは想像が付かなかったのか、エヴァンジェリンの姿を捉えるまでには至らない。
 だからか、エヴァンジェリンは殊更にのどかの恐怖心を煽るように視界を霞めるようにして背後へと降り立つ。
 起こるはずのない空気の乱れに、短く喉を引き攣らせるのどかは恐怖のピークに達して、後ろに降り立った何かを確認する事などできるはずもない。それをいい事に、ゆっくりと、しかし舐めるように指を首筋に這わせながら、エヴァンジェリンはそっと耳元で囁く。
 「宮崎のどか、その血を少し分けてもらうよ」
 ここまでが限界だった、許容を超えた恐怖でのどかの体から意思の力がフッと失われる。力の抜けた体は、重力に従って真っ直ぐに地面へと崩れ落ちた。
 しかしエヴァンジェリンにとって意思の有無など関係ない。
 地べたに横たわるようにして気を失ったのどかの上半身を支えるように持ち上げ、首筋に鋭く尖った八重歯を突き立てる。
 「待てーっ」
 だがしかし、エヴァンジェリンの目論見は後僅かの所で遮られた。
 魔法の隠匿という言葉を遥か彼方へと置き忘れたように、真っ直ぐにこの場へと杖に跨り疾走する少年の存在によって。
 「僕の生徒に何をするんですかっ!」
 同時に紡がれる呪文。
 エヴァンジェリンと気を失ったのどかの居る場所の目と鼻の先に降りるや否や、すぐさま紡がれた呪文が形となって少年の手元から放たれた。
 「魔法の射手・戒めの風矢」
 救出すべき対象が敵のすぐそばに居る事などお構いなしに。
 それをどこか遠くの出来事のように眺めるエヴァンジェリンは、無意識に触媒を手に取り、そのまま向かってくる魔法の射手へ向けて放り投げる。積み重ねられた経験のなせる条件反射に近い行動だった。
 「氷楯」
 自身の意思と関係なく紡がれる呪文に反して、エヴァンジェリンの頭の中は漸く回転を再開し始める。
 「そういえば、こんな予定だったか……忘れてたよ」
 必死の形相で迫る少年を、魔法の衝撃によって弾き飛ばされながらも視界から外す事なく、本来取り得る筈だった姿勢をエヴァンジェリンは徐々に思い出す。
 当初の予定では、佐々木まき絵に残留した微かな魔力を餌に目の前で逸る少年を釣る計画で、この場では顔見せ程度の遣り取りで済ませ、存在をアピールするのみで完了となっていた。
 だが、予想外の精神的なショックから、それを綺麗サッパリ忘れていた為に計画は見事に破綻してしまった。
 別段、――今からでも当初の予定とは異なるが――道筋を修正できなくはない。けれども、エヴァンジェリンにはもうそのつもりがなかった。
 今更、行動を取り繕うのもどうかと思う感情が一つ。もう一つは、鬱憤を晴らす格好の玩具が目の前に存在するからだ。
 最後まで追い詰めるつもりはない。だが、血を頂かないまでも、恐怖を植えつける程度はやってしまっていいだろう。全ては、この少年の血縁者が始まりを刻んだ問題なのだから。
 そう考えた瞬間、エヴァンジェリンの頭の中から計画という言葉は彼方へ追いやられ、いかに少年に恐怖を刻みつけるかが、その大部分を占有してしまう。
 「始めまして、ネギ・スプリングフィールド。麻帆良学園中等部への就任おめでとう。私は貴様を歓迎しよう」
 魔法の衝突によってふさがれた視界が晴れ、響いてきた声を耳にしたネギは、見覚えのある顔に驚きを隠せないでいた。
 「あなた、は」
 「あぁ、自己紹介がまだだったか。私は、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。記録上は貴様の担任するクラスの生徒、となっているな」
 「エヴァン、ジェリンさん……あなたは、魔法使いなんですか?」
 「そうだが? 自分の目で見た事を信じられないのか?」
 吸血の魔の手から救い出したのどかを傍らに、ネギの心境は千千に乱れていた。
 何より、現状に彼の思考が追いつかない。
 「そんな、何故? あなたは魔法使いなんですよね?」
 「何度も同じ事を聞くな。私はイエスと答えたはずだぞ」
 「な、ならどうして! あなたが僕と同じ魔法使いならこんな酷い事を……どうしてっ!!」
 半ば睨み付けるようにして叩きつけられた言葉は、その強さに反して、エヴァンジェリンにはどうにも薄っぺらいものにしか聞こえなかった。それは、彼のその言葉に込められた思いが、誰かから教えられたものそのままだったからか。
 「強い言葉には力が宿る。だが、それが借り物の言葉だと貴様の器が知れるというもの。底が浅いな、坊や」
 カッとネギの頭に血が上る。
 エヴァンジェリンの言葉に込められた真意は解らなくとも、侮辱された事だけはネギにもはっきりと理解できた。
 だが、それはまだ彼を感情に任せて暴走させるには至らない。
 「そんな事はどうでもいい事です。僕が聞きたいのは、どうして魔法使いのはずのあなたが宮崎さんにこんな事をするのかです」
 「ふむ、年齢に反して自制心は効く方か」
 「だからっ!」
 「分かっている。何故か、と問われれば、それは私が悪い魔法使いだからだ」
 「悪い魔法使い」
 信じられないと目を見開くネギは、エヴァンジェリンの言葉を鸚鵡返しに言って、その後は言葉にならない言葉を漏らして呆けるばかり。
 だから、エヴァンジェリンが懐から魔法薬を取り出す所作も、それを掛け合わせて魔法を繰り出す動作も、ただ眺めるだけしかできなかった。
 「氷結武装解除」
 目の前で全てを剥ぎ取る氷の飛沫が乱舞する段になって、ネギはやっとレジストする事に思い至る。
 だが、その反応は遅すぎた。
 氷の破片となって散り散りとなった服の破片が頬を叩く。
 「無様だな、坊や。ナギならば、欲しい物は例えそれが何であったとしても力ずくで手に入れただろうよ。お前とは比べるまでもないな」
 氷の破片に視界を遮られたネギに対し、そんな言葉を残してエヴァンジェリンはこの場を離れる。
 桜通りへこの時間に近づくものは少ないだろうが、用心に超した事はない。
 それを証明するように、この場を離れる間際、ネギに駆け寄る二人の少女がエヴァンジェリンの視線の先にあった。
 「間一髪。助かったのは私の方かもな」
 それは、桜通りを離れる際に視線の先に捕らえた少女の片割れに起因した。
 濡れ羽色の髪を腰まで伸ばした、おっとりとした雰囲気の少女――近衛木乃香――は、この学園において知らぬ者はいない学園長の孫娘。
 特に魔法関係者の間においては、彼女に対しての魔法の秘匿は厳しく言い含められていた。それが孫可愛さからくる学園長の職権乱用と解っていても、無用な波風を立てる必要などない。エヴァンジェリンは今後の立ち回りを考慮した上で、危険を犯す時は今ではない事は重々承知していた。
 それに、エヴァンジェリンにとっても木乃香の存在は、それなりに重要な位置を占めていたから。
 「ラピスの友人を手に掛けるのは気が引けるしな」
 状況にそぐわない、柔らかな笑みが浮かびそうになるのをグッとこらえながら、エヴァンジェリンは後方に迫るネギに意識を向ける。
 最後に残してきた捨て台詞は、流石に聞き捨てならなかったのだろう。その表情は必死を通り越して鬼気迫るものがあった。
 そんなネギを尻目に、目前に迫る欄干を一息に飛び越え、夜空にその身を躍らせる。当然、その行動もネギを思い止まらせる事無く、彼も同じく夜空へとその身を躍らせた。
 「人の事を言えた義理ではないが、本当に魔法の秘匿という言葉をアレは知っているのか?」
 浮かんだ疑問を考える間もなく、迫るネギは新たな呪文を紡いでいた。
 聞こえてくる呪文から、すぐさまそれが精霊召還だと当たりをつけたエヴァンジェリンは、夜空を駆る速度をさらに上げつつも手にした魔法薬を迫り来るそれへ放り投げる。
 都合五つのフラスコは、狙い違わず迫る風の中位精霊の複製へと炸裂するも、全てを薙ぎ払うには至らない。それでも、召還された八体の内、五体を消し去る事には成功した。
 だが、迎撃に要した僅かな時間が残る三体との距離をじわじわと狭める。仕方なくエヴァンジェリンは各個撃破を選択するも、それはネギ自身との距離を詰める隙を与えてしまう。しかし、そこまで追い詰められるも、微塵もエヴァンジェリンに取り乱した様子は伺えない。
 「追い詰めた! 風花武装解除」
 一際高い建物の屋根の上、足場を失う事での不利を補う目的で選んだ迎撃場所が功を奏し、装備を剥ぎ取られるもエヴァンジェリンは地面に叩きつけられる事にはならなかった。
 「ふむ、ここまでは及第点といったところか」
 「余裕もこれまでです。父さんの事、宮崎さんを襲った理由、両方とも聞かせてもらいますよ」
 ここまでの追跡劇は思いのほかネギの体力を削っていたのか、落ち着き払った態度のエヴァンジェリンとは対照的にネギはすでに肩で息をしていた。それに、明確な敵対意思を向けられた戦闘が始めてだった事も影響したのだろう、想像以上の消耗は彼の周囲に対する注意力も散漫にしていた。
 故に、月明かりに照らされる影が、いつの間にか二つから三つになっている事にネギは気がつけなかった。
 「サウザンドマスターについて語るのは構わないが、貴様は此処から生きて帰れると思っているのか?」
 「魔力もなく、マントも触媒もないあなたに勝ち目はありません!」
 「ははっ! 即興で組み立てた策にここまで見事に嵌ってくれるとはな」
 何をっと反論をあげようとしたネギの言葉は、半ばまで発することなく屋根を砕く音に遮られた。
 エヴァンジェリンのすぐ傍へ降り立ったそれは、すぐさま彼女を庇う位置へと移動すると静かに臨戦態勢を整える。
 「エマージェンシーコールは予定とは些か違っていたように思うのですが……大丈夫でしたか? マスター」
 「ん、問題ない。あとは、目の前の坊やを追い詰めれば予定通りだ」
 呆気なく戦況は覆された。
 いや、エヴァンジェリンとっては予定通りだったと言うべきだろう。
 「ミニステル・マギ」
 「おや、きちんとお勉強してるじゃないか。流石は天才少年、説明の必要ないな」
 じっと降り立った存在に視線を釘付けにされたネギは、陰になって顔は確認できないものの、その出で立ちに引っかかる物を感じていた。
 どこかで見たことのある、と感じたそれは月明かりに晒される事ではっきりと認識する事ができた。見間違う事など無いそれは、彼が毎日のように目にしている麻帆良女子中等部の制服であり、ゆっくりと顕になる顔はエヴァンジェリンと同じく彼の生徒であった。
 「君は、ウチのクラスの!」
 「はい、絡繰茶々丸です」
 「そん、な……」
 形式的になりつつあるとはいえ、魔法学校においても戦闘の基礎は学ぶ。その講義において、魔法使いの戦い方の基礎を学んだ内容を今更ながらネギは実感していた。ミニステル・マギを従えた魔法使いに対して、それを持たない魔法使いは圧倒的に不利である、と。それに何より、自分の受け持つクラスから、二人も敵対する存在が現れた事にショックを隠せない。
 ついでに言えば、勝利目前と思い込んでいた思考も急速に冷やされていく。
 「風の妖精11人、縛鎖となりて敵を捕まえろ―――サギ…」
 不利を承知で唱えてみた呪文は、予定調和の如く防がれる。
 音もなくすっとネギに近づいた茶々丸の一手によって。
 「あたっ」
 額に打ち込まれたデコピンに少し涙目になりながらも、ネギは何度か脱出の機会を探ろうと呪文を紡ぐが、その尽くが無駄に終わった。
 これが熟練の魔法使いであったならば、他にも何か隠し玉があったかもしれないが、まだまだひよっこでしかないネギにはこの状況を打破する手段は何もない。ここまでの悪あがきも、ただエヴァンジェリンの手の平の上で最後の瞬間を僅かに先延ばしにする程度にしかならなかった。
 「申し訳ありません、ネギ先生。マスターの命令ですので」
 何度目かの詠唱を試み、それを防いだついでとばかりに茶々丸はネギを簡単に拘束してしまう。
 つまりは、始めの勢いも空しく、あっけなく詰んでしまった。
 「では、勝者の特権を頂こうか」
 ゆっくりと一歩一歩距離を縮めていくそのやり様は、刻一刻と迫る命の灯火が消える瞬間を感じさせ、やおら恐怖を煽る。
 だが、エヴァンジェリンがネギの首筋に牙を突き立てようとする直前、その音は彼女の耳朶を叩く。
 軽快な足音と、響き渡る怒声。そして、それら隠れるように微かに聞こえてくる機械の駆動音も。
 エヴァンジェリンにとって重要なのは後者の方だ。何故なら、その音はアキトが介入する合図だから。
 「潮時、か」
 首筋の柔らかそうな皮膚を食い破るのを目前に、エヴァンジェリンは一切の躊躇いもなくネギの体から距離を取ろうとした筈が、何故か急激な視界の変化に晒された。
 横滑りに滑っていく自身の体と、頬を貫く痛み。それと、直前に耳に飛び込んできたのがガラスを砕いたような音だった事から推察するに、常時展開している防護壁を貫いての一撃である事だけは混乱する思考においてもすぐに推察できた。
 だが、犯人がとんと浮かばない。
 機械音があった事から現場に来たのはバッタであって、アキトでないのは確実である。
 では、他の魔法先生が?
 確かに他にも麻帆良に所属する魔法先生はいるが、まだ介入の段階には至っていない。魔法生徒に関しては、エヴァンジェリンの障壁を貫くような実力を持っているものは一部の例外を除いてはいない。その例外にしても、今の段階で干渉するメリットがない。
 いったい誰がと疑問を胸に、思いのほかネギとの距離が開いた場所で漸く止まった体を起こして視線を戻す。
 するとそこに、普段の勝気な表情を驚きに染めた少女が立っていた。箍が外れて泣き出してしまったネギをあやす姿はなかなかに堂に入っている。
 「神楽坂アスナ」
 「あんた、うちの居候になにしてくれてんのよ!」
 雲が切れ、差し込む月明かりに照らされて互いの顔がさらされる。
 エヴァンジェリン程に夜目が利かないアスナは、この段に至って漸く晒される蹴り飛ばした対象の正体に声を荒げた。
 「って! あんたウチのクラスの―――」
 長居は無用と、全てを語る前にエヴァンジェリンは傍に来た茶々丸を伴って身を翻す。
 マントや触媒を失くしている為、茶々丸のバーニアに頼っての撤退だが、ネギが戦意を喪失しているので追撃の心配はなかった。
 ヒリヒリと痛む頬が、夜風に晒されて程よく冷やされる。
 「さっきのは、いったい何だったんだ」
 ネギの血を得られなかったのは然程、問題ない。どちらかといえば、ネギの傍に先ほどの様な現象を引き起こせる不確定要素が居る事の方が問題だった。
 だが、逆に言えば今の段階でこの情報を得られた事も望外の幸運とも言えた。
 「マスター、メールが届いていますがどういたしますか?」
 「誰からだ?」
 「匿名です」
 それだけでエヴァンジェリンは、それが誰からの物が察しがついた。同時に仕事が早い、との感想も。
 ログハウスまでの道程はまだ幾分ある。周りを確認してみた所、学園長等の眼が存在する気配は感じられない。
 「茶々丸、監視用の魔法に対して妨害工作をした後、メールを開け」
 「イエス、マスター」
 返事と同時に、茶々丸の耳にあたる場所に存在するカバーのような物が展開。中からアンテナの様な物が出てくる。
 目に見えて何かが変わった訳ではない。だが、それだけで魔法による監視の目を誤魔化せる、らしい。エヴァンジェリン自身、機械に類する技術に詳しくない為、茶々丸を生み出した面々が基本装備として実装したものだったがその理論までは熟知していない。けれども、その効力に関しては彼女も確認済みである。
 だから、麻帆良での住処であるログハウスに到着するまでの時間つぶしも兼ねて展開されたウィンドウへと眼を落とす。
 スクロールを操作し、順々に目を通していく。
 合計でA4用紙五枚程の要領の本文と参考資料で構成されたソレは、終わりに近づくにつれてエヴァンジェリンの目を通す速度は加速度的に速くなった。
 時に同じ箇所を何度も見直したり、参考として添付された資料と付き合せたり。暇つぶしを兼ねたものだった筈が、気が付けばログハウスに到着した後になっても作業は終わらない。
 エヴァンジェリン自身は未だ茶々丸の肩に腰を下ろしているつもりだが、実際は既にログハウスに入り、お気に入りのソファに腰掛けた状態だ。
 傍らに傅く茶々丸はそんな主の為に、気分転換の紅茶を入れている。
 「ハハッ!」
 無意識に伸ばされた手は、高揚した気分を抑える為に紅茶へと向かう。
 淹れ立てでまだまだ熱い筈の液体を、エヴァンジェリンは頓着することなく一気に嚥下していく。その様子を見るに、茶々丸が期待した紅茶の鎮静作用は全くといって良い程効果がなかったようだった。
 音を立ててティーカップをソーサーへ戻し、再びエヴァンジェリンの意識は送られてきたメールへと向かう。
 「神楽坂アスナ。じじぃが孫の傍に置くからには何か理由があるとは思っていたが……。そうかそうか、そういう事か」
 「マスター、何か解ったのですか?」
 「あぁ、コレが全てではないだろうが、さっきの障壁を突き破られた理由は解った」
 茶々丸の疑問を解消する為だろう。エヴァンジェリンは解りやすいように、送られてきた資料を茶々丸にも見えるように展開して説明を始める。
 「見てみろ、茶々丸」
 「これは、先ほどの戦闘時の映像ですか」
 そうだ、と頷く先にあるのは、言葉通りつい先ほど、エヴァンジェリンが蹴り飛ばされる直前の映像だった。
 どこで誰が撮影したか、などの疑問はどちらも口にしない。それは、二人ともが既に知っている事だから。
 「ここだ、この箇所を注意して見てみろ」
 コマ送りで再生される映像は、今まさにエヴァンジェリンの障壁にアスナの足が触れようとする直前だ。コレが普通の魔法使いか一般人なら、見えない壁に阻まれてそこで止まる。だが、ゆっくりと進む映像の中で、アスナがその進行を阻まれる事はなく、逆に強固なはずの壁の方がガラスが砕けるように砕け散る。
 「障壁が破られています」
 見たままの事実を口にした茶々丸のそれに、エヴァンジェリンは諭すように間違いを指摘する。
 「いや、違う。普通の魔法使いが障壁突破の術式を組み込んだ攻撃をしても、今の様な破られ方はしない。あえて言葉を当てはめるならこれは、突破されたと言うよりも自壊させられた、と言った方がしっくりとくる」
 「そう、なのですか。ですが、そのうような事が可能なのですか?」
 「真っ当な人間にはできんだろうな」
 「では、神楽坂さんは」
 「十中八九、魔法使い側の人間だ。本人が知っているかは怪しいがな」
 確認した事実を言葉に置き換えた事で、漸く本来の落ち着きを取り戻したエヴァンジェリンはついと周りを見渡した。
 するとそこには、見慣れた家具と人形達。
 「いつ、私は家に入ったんだ?」
 「かれこれ30分程前かと」
 本当に気が付かなかった、と本日一番の驚きを見せたエヴァンジェリン。呆れる程に、集中していた弊害が此処にきて噴出した。
 「それに、なんだか妙に舌と喉がヒリヒリする」
 「淹れ立ての紅茶を、頓着なく一気に飲んでしまわれた所為かと」
 エヴァンジェリンとは逆に、今日一番の冷静さを見せる茶々丸。
 「まぁ、問題ないか」
 「はい、問題ないかと」
 真っ直ぐに茶々丸を見る事なく、しかして、エヴァンジェリンの耳が少し朱に染まっている事を口にする様な者はいなかった。だからか、エヴァンジェリンは場の空気を払拭するように声を張り上げる。
 「でだ! これらの事から導き出される解がある」
 「それは?」
 出来る事なら、単純な疑問とは違う言葉が欲しかったが、それを今の茶々丸に望む事は些か厳しかった。期待した展開が得られなかった事に一抹の不満を感じるも、自分から無理に進めた展開に逆らう訳にもいかず、どこかモヤモヤとした気持ちを抱えながらもエヴァンジェリンは説明を続ける。アキトが居れば何か違った言葉を掛けてくれただろうか、などと頭を掠めた事は欠片も感じさせずに。
 「……神楽坂アスナが魔法無効化能力を持つ存在である、ということだ」
 「魔法無効化ですか」
 「あぁ、読んで字の如く、この能力を持つ存在の前では魔法が全く意味を成さなくなる」
 それは、エヴァンジェリンの計画に対して大きな障害と成り得る。茶々丸の主であるエヴァンジェリンが生粋の魔法使いである事からも、そう結論に辿り着く事は火を見るよりも明らか。
 「となると、今後は神楽坂さんがネギ先生のパートナーとなるのを妨害する事を念頭に置いて行動するのですね」
 「いや、それは必要ない。どちらかといえば、神楽坂アスナがパートナーとなるように仕向ける方が良いな」
 「ですが、それだとマスターが戦闘において不利になるのでは?」
 至極真っ当な推察ではあったが、エヴァンジェリンは自信に満ちた態度を崩さない。
 「確かに魔法使いにとって神楽坂アスナは天敵足りえるだろうな」
 「でしたら……」
 「心配するな。確かに天敵だが、対処の方法など幾らでもある。排除するのはそう難しくない」
 「そう、ですか。解りました」
 具体的な対策がエヴァンジェリンの中であるのならば、従者である茶々丸に言うべき事はなかった。そもそも彼女の身は、その存在意義が示す通り主を守る者であって、共に戦うものではないから。
 「やっとだ。やっと終わりが見えてきた。長きに渡って苦しめられた呪いから、漸く開放される」
 変化のない穏やかな日々。エヴァンジェリンにとってそういった日々も楽しくなかった訳ではない。荒んだ日々によって削られた心が満たされていく毎日。そんな生活も悪くなかった。
 だが、出会ってしまった。
 その事実が、今のエヴァンジェリンをどうあっても先へ進めと責め立てる。
 「なぁ、アキト。あの日お前に聞いて欲しかった言葉。やっとお前に伝えられそうだよ」
 嬉しそうに笑みを浮かべる主を、従者は黙って見守り続けた。
 先の言葉の意味する所は茶々丸には解らない。その時分はまだ生まれてすら居なかったから。けれども、その言葉に篭る想いを感じるに、主の目指す場所はきっと自身も望むべき未来である。
 何故か、茶々丸はそう確信が持てた。

テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2010/07/10(土) 00:09:16|
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